原発による環境及び人的影響@
本来であれば前号のあおぽvol.756で5年前に特集した 86年に起きたチェルノブイリ原子炉事故の特集記事を抜粋して掲載するはずでしたが、急遽、福島原発爆発事故について五井野正博士に原稿をお願いしました。
博士は冊子「ザ・フナイ」に毎月原稿を寄稿しており、前号(4月号)ではいち早く3月12日に起きた福島原発爆発事故を記述していました。それが大きな反響を呼んでおり、あおぽではさっそく打診した次第です。
そしてあおぽの申し出を快く承諾して下さった博士は、ザ・フナイ5月号に掲載する原稿をあおぽの読者のために特別に許可して下さったのです。
『今だに放射性物質が出続けている福島第一原発』
チェルノブイリ事故並みの被害の大きさ!?
前号(ザ・フナイ4月号)は原稿出稿を時間ギリギリまで延ばしてもらって3月12日に起きた福島原発爆発事故を記述しました。その後、『ザ・フナイ』や講演会で予測した通り、福島原発は炉心溶融して原子炉が破壊されるところまで進んでしまった。そして、史上最悪の事故となったチェルノブイリ原子炉事故と同じ様な最悪のケースに向かってしまったのである。
と言えるのも、各地での放射線測定値をもとに、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測)システムで福島原発から1時間あたりの放射性ヨウ素の放出率を推定すると、原発事故発生直後の3月12日午前6時から3月24日午前0時までの放出量が3万〜11万テラベクレル(テラは1兆倍)になったという結果が出たからである。
この量はこの期間中に、1歳児が一日中ずっと屋外にいたと仮定すると放射性ヨウ素が甲状腺に取り込まれて健康に被害を受ける100ミリシーベルトの線量を超えてしまう地域として、南相馬市、飯舘村、川俣町、浪江町、葛尾村、双葉町、大熊町、富岡町、楢葉町、広野町の一部だけでなく、北西方向に約50キロの福島県伊達市南部や、南南西方向に約40キロのいわき市の東部にまで大きく広がってしまうから、チェルノブイリ事故並みの被害の大きさと言えるからである。
すると、チェルノブイリ事故の場合、子供の甲状腺ガンが5年後から急増している事からも政府は今すぐにもこの区域に対して対策を講じなければならない。すなわち「ただちに健康を害するものではない」と言っていられない問題なのだ。
さらに、国際原子力事象評価尺度(INES)では、チェルノブイリ原発事故のような「レベル7=深刻な事故」を数万テラベクレル以上の放出と定義しているので福島原発の場合、既にこの時点でレベル7の深刻な事故と言えるだろう。
実際に、福島原発事故の32年前の1979年に米国ペンシルベニア州スリーマイル・アイランドにおいて、レベル5の原子炉の炉心溶融事故が起きたが放出された総放射線量は250万キュリー(1キュリーは370億ベクレル)と計算されている。
スリーマイル・チェルノブイリ・福島の原発を考える
汚染度の高い地域はチェルノブイリ級の汚染地
それに対して、今回の福島原発事故では放射線の放出が依然として継続している為に、全体の放射線量はまだ計算出来ないが米国の市民団体、エネルギー環境調査研究所(IEER)の計算によると、3月28日までに大気中に放出されたヨウ素131だけでも、240万キュリーと推定され、これだけでもスリーマイル事故で放出された放射線の総放出量近くなり、スリーマイル事故で放出されたヨウ素131だけに限ると福島原発はその放出量の14万倍との事である。
と言うのも、スリーマイル原子炉事故では炉心溶融はしたが、燃料棒が入った圧力容器までは破壊されずに済んだ為に、放射性ヨウ素や放射性セシウムが福島原発と比べてほとんど出なかったからである。
と言う事は、福島原発は核燃料を入れている圧力容器が破損し、さらにそれを閉じ込める原子炉格納容器も破損して、チェルノブイリ原子炉事故の様に溶けた核燃料の一部が大気中に放出されたという事になる。事実、原子力安全・保安院は3月15日に格納容器の一部が壊れた可能性があると発表している。
今だに先の見通しがたたない福島原発事故
さらに、スリーマイル原子炉事故の場合、事故発生から冷温停止まで約3週間かかったが、福島原発の場合3週間近くたっても一向に状況は良くならず、見通しもたっていない。
特に放射線セシウム137は半減期が30年と長く、人類にとって大きな影響があるが、今回、福島原発事故によって28日までに大気圏内に放出された量はIEERによると50万キュリー程と言われ、これは広島型原爆で発生した放射線量の約150倍に相当するからレベル5のスリーマイル原子炉事故との比ではない事がわかる。
さらに、福島第1原発から北西約40キロ(福島県飯舘村)の地点で3月20日に採取した土壌から、放射性ヨウ素131を1キログラムあたり117万ベクレル、放射性セシウム137も1キログラムあたり16万3千ベクレルが検出されている。1キログラムあたり16万3千ベクレルと言うのは1平方メートルあたりに換算すると、なんと326万ベクレルに相当するのである。
データは公表的な内容を要約
チェルノブイリ事故では1平方メートルあたり55万ベクレル以上のセシウムが検出された地域は強制移住の対象となったから、その6倍近くの放射線が出た区域は当然の如く強制移住の対象となるはずだ。
しかも、チェルノブイリの放射能放出は事故から10日ほどでおさまったのに、福島第1原発では今だに放射性物質が出続けており、日毎に放射線量が蓄積する為に汚染度の高い地域はそれだけでもチェルノブイリ級の汚染地と言っていいだろう。
そして、今まで述べてきたデーターは誇張された数字ではなく大手新聞社の記事で発表された公表的な内容を要約したものであるから実際にはもっと大きな数字になっている可能性がある。
それにしても、日本国民は今回の福島原子炉事故をレベル5のスリーマイル事故と同レベルの原子炉事故と思わされ、消防車の放水や電源の回復など、そういうニュースに関心が向けられて事態の深刻さに気付いていない様に感じ取れてしまう。
その理由として、一般的に国家の非常時の時は国家や官僚、企業が情報操作して国民に正確な情報を伝えない、あるいは遅れて小刻みにして情報を出すものだから、日本もこの点に関して例外ではなかったから、と言えるであろう。
(次号へ続く)