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五井野正博士の世界

原発による環境及び人的影響I

政府が国民にばれるのを恐れた理由

「検証」メルトダウンの過程
地震に弱い原子炉、日本の原発の全部が危険な状態

(前号より)
 しかも、図@の東京電力の資料を見ると、重大な冷却水の配管事故が起きた福島原発一号機の揺れの最大加速度が460ガルだったから、いかに原子炉が地震に弱いかが国民にわかってしまうのである。
すなわち、200から550ガルの地震で福島第一原発に重大な設備破壊が起きていたとなると日本の原発全部が危険な状態に置かれていることが国民にばれてしまうからである。
 となると、燃料にプルトニウムを使う高速増殖炉(FBR)「もんじゅ」がある敦賀市には敦賀原発があるが、想定地震の最大は福島第一、第二原発と同じく600ガルとなっているから同様な問題を抱えることになる。
 すなわち、敦賀原発も福島原発と同じ想定内地震事故が考えられるから問題は福島原発に留まらず、前述(763号)したように昨年の8月に起こした「もんじゅ」の原子炉内の事故の問題までもクローズアップされてしまうことを政府や原子力村が恐れたとも言える。
 現実に福島原発事故後、高速増殖炉「もんじゅ」は地震が来たら最も危険な原子炉としてメディアにクローズアップされてしまった。しかも、2兆円以上の税金をつぎ込んで、わずか一時間しか稼動しなかった欠陥原子炉として話題にもなってしまったのである。
 さらに、東海第二原発や志賀原発なども600ガルの耐震設計となっているし、福井県にある高浜原発の場合になると想定地震の最大が550ガル、想定津波の最大が1.6mだから国民がこの事実を知ったら1億総反原発家に変わり、声を大にして原発の新設どころか即時に原発運転停止、そして廃炉を要求する国民運動が起きてしまうことを政府や原子力村が非常に恐れたのであろう。
 そこで、地震による原発事故の事実をはっきりとさせ、さらに政府や東電の事故対応を現実認識するために、3月11日17時から1号機の建屋が水素爆発する3月12日15時36分までの福島第一原発1?3号機の動きを、公式発表の上にさらに私の解説を交えて説明してみたい。
 まず、冷却水を圧力容器に送る電源が全て喪失した場合の最後の砦は非常用バッテリを使って「原子炉隔離時冷却系」などを動かし、圧力容器の中を冷やす最後の手段方法となる。
 しかしながら、これは、7〜8時間しか使用できず、そこでバッテリが切れる23時前後から12日0時前後までに電源車を福島第一原発前に集めて原子炉を冷却させる「冷却作戦」を官邸と保安院、東電のもとで進められることになった。
 3月11日17時、東電本社は原発周辺の各支店に電源車を第一原発に要請。しかし、「道路被害や渋滞で進めない」と報告され、18時20分頃に東北電力にも電源車を要請。21時過ぎに東北電力からの2台の電源車は着くものの場所を間違え、ようやく第一原発に到着したのは深夜とも翌日の12日未明とも言われ、はっきりしない。


政府は放射性物質が原発周辺に拡散したことを認める

 他からも数台の電源車が来ていたが、電源車と冷却装置のプラグや電圧が合わないために無用の長物となって断念。結局は時間と労力と期待の無駄になるだけでなく、この空白の時間帯に1号機は保安院の解析では11日17時、東電の解析では18時頃から炉心の露出が始まっていた事が後にわかった。その原因として地震で破損した配管から圧力容器の中の冷却水がどんどん噴出したからと考えられるだろう。
 その結果、核燃料棒が入った圧力容器の中の水がなくなると、燃料棒の中の直径約1pのペレット状に固めたウラン燃料が自らの崩壊熱でどんどん温度を上げ、その高熱によってジルコニウム合金の被覆管を溶かしてしまうことになる。
 11日18時頃(保安院解析<6月6日>)、後の東電の解析だと19時頃に核燃料棒が損傷し始め、圧力容器の温度が急激に上昇、約2800度に達した。これは燃料棒がどんどん溶けて圧力容器の下に溜まったことを意味する。
 すなわち、1号機原子炉の配管穴から圧力容器内に入っていた沸騰水が外にどんどん逃げてしまったために燃料溶融は当初の想定よりも5?6時間早く始まってしまっていたのである。
 しかしながら、政府も東電もあらかじめに作成した想定内問題しか解けないのか、バッテリが切れる深夜0時頃までに冷却水を送る電源確保の事ばかりに必死になって消防車などによる緊急の注水作業を遅れさせてしまったことが事態を完全に悪化させてしまったと言える。
 同19時03分に政府が原子力災害対策特別措置法に基づく原子力緊急事態宣言を発令。
 この宣言の発令は、原発周辺に異常な数値の放射線量を検出した場合などに出されるもので、首相は災害対策地域の確定や避難の指示などをしなければならないのである。つまり、この時点で政府は多量の放射性物質が原発周囲に拡散してしまった事を認めたことになる。


なぜ事故当日、東電と政府は米国の支援を断ったのか?

 19時半、北沢俊美防衛相が自衛隊始まって以来初の原子力災害派遣命令を発令した。
 そこで核・生物・化学(NBC)兵器に対する「中央特殊武器防衛隊」(中特防)を出動させた。だが、放射線部隊でないので原子炉の知識はあまり無く防護服も外部被曝には充分対応できないし化学防護車も中性子を遮る防護板がついた程度の装備だったという。
 同19時42分に枝野官房長官が原子力緊急事態宣言を発表した。
 同20時50分、福島第一原発から半径2キロに避難指示。そして、21時23分に菅首相が半径3q圏内の住民に避難の指示をする。その後、枝野幸男官房長官は記者会見で、「原子炉のうち一つが冷却ができない状態に入っております」避難については「念のための指示」と繰り返した。対象住民は約5800人にのぼり、避難完了には3時間を要した。
 ところで、自民党の中堅の議員によると、米国は原発事故の当日中に無人探察機で福島原発の精密な写真を撮り、分析してホウ素を混ぜた冷却剤の空中からの投下を申し入れたが、東電と政府が「廃炉にしたくない」と断ったそうである。
 そして、その際に得たデータは防衛省が完全に握りつぶしてしまい、政府や原子力安全・保安院、さらに東京電力にさえもそのデータは知らされていないと言う。ホウ素は中性子を吸収するために核の再臨界・核爆発などを防ぐ物質である。すると米国はこの時点で1号機がメルトダウンしていることをつかんでいたことになる。
 11日23時50分頃とも、12日深夜1時頃とも報道されているが、1号機の原子炉格納容器内の圧力が異常上昇。原因として考えられるのは溶けた核燃料が圧力容器の底部を溶かして穴をあけ、格納容器に落ち始めたからだと考えられる。
 1時30分に海江田経産相がベントを急ぐよう東電に指示して後に枝野官房長官が1号機を優先してベント実施の方針を表明する。12日1時48分、消防車からの注水を検討開始、しかしながら注水のための水源は消火栓が破壊されていて供給困難状態。結局、防火水槽に水を供給してから注水するが、たびたび中断。
 1時57分に1号機のタービン建屋内で放射線量が上がってきた。3時45分頃、原子炉建屋の二重扉を開いた現場の作業員が白いもやを確認してすぐに扉を閉鎖。
 未明4時頃に1号機の格納容器圧力がさらに上昇中だけでなく、1号機の中央制御室で通常の100倍である毎時150マイクロシーベルトのガンマ線、5時頃には原発正門前付近でヨウ素も検出されたと発表。事実とするなら最も数値の低いデータを選んでの発表だと思われる。というのも…。

(次号へ続く)

              
五井野 正 (ごいの ただし) 科学者・芸術家
ウィッピー総合研究所 所長 / ロシア国立芸術アカデミー名誉正会員
スペイン王立薬学アカデミー会員 / アルメニア国立科学アカデミー会員
フランス芸術文化勲章受章
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