放射線災害の歴史と現状B
放射線影響研究所の目的は被爆の治療や防止ではない
強度の原爆放射線の体外被ばくより 低レベルの放射能の体内被ばくの方が人体に大きな危険がある
1972年、ホワイトシェル研究所のアブラム・ペトカウは短時間の高レベル放射線よりも低レベルの放射線を長時間放射したほうが細胞にダメージを与え易いことを発見した。これは強度の原爆放射線の体外被ばくよりも低レベルの放射能の体内被ばくのほうが人体に大きな危険があるということを意味している。
これにより0・01から0・1シーベルト(10ミリシーベルトから100ミリシーベルト)の最小線量の体内被ばくによっても人体に大きな危険を受ける可能性が出てきた。それゆえ、100ミリシーベルト以下なら健康に問題がないと言っている学者はこのような事実を知らない無知な学者と言えるだろう。
ペトカウ理論を指示したヨーロッパの科学者グループ、欧州放射線リスク委員会(ECRP)はチェルノブイリ原発事故の体内被ばくの影響を考慮して、それまでの国際放射線防護委員会(ICRP)が公開した1945年から89年までに原子爆弾や核実験による放射線被ばくで亡くなった人の数117万人と言う数字に対し、6160万人と言う数字に訂正した。
となれば広島・長崎の原爆で1950年までに34万人が死亡したとされる数字は訂正されて、さらに大きな数字となる可能性がある。肥田氏は著書の中で広島・長崎の被ばく者は百万人位いると記述している。
ところで、日本政府が放射線暫定規制値を定める時に国際放射線防護委員会(ICRP)が定める数値を常に参考にしているが、このICRPの定める数値の主な根拠は、前述したABCC(米国原爆傷害調査委員会)が1948年に厚生省国立予防衛生研究所と共同で原爆被ばく者の健康調査をした時のデータに基づいていたのである。
それゆえ、ICRPのデータは前述してきたようにあくまでも初期放射線量による外部被ばくに関するデータであって、放射性物質を体内に入れた内部被ばくのデータを基にしているのではない。
ABCCは1975年に日米共同研究機関として財団法人放射線影響研究所に変わっている。運営は日米の理事会で行われ、財務は日本の厚生労働省と米国のエネルギー省によってまかなわれているため、非常に原子力産業の影響を受けている機関と言えよう。
そして、日米合同で広島や長崎で協議を重ね1986年に前述したように広島・長崎での被ばく者たちの観察や検査、そして、米国に送られた臓器などの調査から放射線が人間の臓器にどのような影響を与えるかのデータをT65Dに組み合わせたDS86(日米科学者の推定値)と呼ばれる線量評価システムの計算式が制作された。
この計算システムを放射線影響研究所が原子力に従事する作業員などの被ばく量や健康管理などに最近まで使用していたようなのである。
残留放射線を浴びた人々は 通常より3、4倍高い確率で 白血病にかかっている
しかしながら、DS86 は従来のT57DやT65Dのように強度の放射線の体外被ばくが対象でチェルノブイリ原発事故で大きな問題となった放射能による体内被ばくを全く考慮に入れていないものである。
それゆえ、核実験が禁止された現在では原発の安全基準としての DS86(日米科学者の推定値)を目的に作成したことになるが、残留放射線は土壌の部分から発生したものだけを対象とし、しかも残留放射線量はゼロと計算しているのである。
その結果、二次汚染被ばくである「残留放射線」の影響はほとんどないという論理から、11万人いた入市被ばく者の原爆症認定の申請をこのDS86を根拠にほとんど却下されてしまった。
しかし、広島大学教授の鎌田七男氏はNHKの番組の中で残留放射線を浴びた人々は通常よりも3・4倍の白血病にかかっていると述べ、放射線の影響による染色体異常を指摘している。また、鉄筋コンクリート他からの放射線を”計算ゼロ“とした誤りを指摘
した。
そして、2011年、福島原発事故が起きてから、前述した放射線影響研究所が中心となって「放射線影響研究機関協議会」が作られ、5月11日に福島第一原発から30キロ圏内の地域に住む住民や、計画的避難区域に指定された福島県の飯舘村、川俣町など大気中の放射線量が高い地域の全住民を対象に大規模な健康調査を行い、健康に対する住民の不安を解消するとともに疫学的調査にも利用することを明らかにしたのである。
その方針に答え、福島県の県災害対策本部では5月27日に開いた有識者の検討委員会で福島県立医大や国の関係機関と協力しながら、線量が高かった県民を対象に数十年単位の追跡健康調査を行い県民の不安に応え健康管理をすると共に、データを放射線医療に役立てると発表した。
しかしながら、福島県民は忘れないで欲しい。放射線影響研究所の前身は広島や長崎の被ばく患者に対し治療を行わない観察検査をし、患者の臓器を米国に送っていたABCCであると言う事を。
つまり、放射線影響研究所の目的が”住民の不安を解消する“ということと”疫学的調査“という点にあって決して被ばく者の治療とか、被ばくの防止ということを目的としていないのである。そして、全福島県民を対象に30年間、場合によってはそれ以上の期間にわたって被ばく線量調査をすると述べているのである。
放射線量の暫定数値を上げ区域内に 留めての長期検査は生存のまま 被ばくさせる人体実験と同じこと
まるで、それだと広島・長崎の原爆被ばく者と同じ扱いで、しかも、放射線被ばくは外部被ばくと内部被ばくと共にこれからどんどんひどくなるという状況の中で、放射線量の暫定数値を上げて県民を区域内に留めて長期に検査するという事は県民を生きたまま被ばくさせる人体実験と同じことを現実的に行うということに他ならないだろうか!!
しかも、ICRPの勧告でも年間1ミリシーベルトなのに子どもたちを年間20ミリシーベルトまで引き上げて子どもたちを放射能汚染地に留めさせるというのは福島県知事も県民の人体実験に全面的に協力しているということになる。
実際に県は放射線影響研究所の方針に答えて、線量が高かった県民の数十年単位の追跡健康調査を行い、健康管理をすると共に得られたデータを今後の放射線医療に役立てると発表しているのだ。
これでは県民の健康管理といいながらGHQが日本を管理監視してきたこと、ABCCが原爆被ばく者を観察管理してデータを取っていたこと、さらには被ばく者健康手帳が被ばく者たちを直接的に管理、監視してきたことと同じようなことではないのだろうか?
それとも、県民の健康を本当に考えてのことなのだろうか?県民のデータを取って誰の放射線医療に役立たせるのか?少なくとも福島県民のためではないだろう。
何故なら、ここで記された県の有識者の検討委員会の座長は”放射線の影響は実はニコニコ笑っている人々には来ません。クヨクヨしてる人に来ます“と迷言をはいた、あの山下俊一長崎大学院医歯薬学総合研究科教授なのである。
このような疫学的でない発言で、”住民の不安を解消する“と思えたら大間違いであろう。政治家なら大臣の首がすぐに吹っ飛ぶような発言である。
彼は8月にドイツのシュピーゲル誌のインタビュアーの質問に被験者は200万人の福島県民全員と答えてしまった。そして、科学界に記録を打ち立てる大規模な研究になると、つい本音の言葉をもらしてしまったのである。
つまり、山下氏は後述するが、スウェーデンのリンコピング大学病院のトンデルグループが114万3182人の固定追跡調査を行った事を意識して、それ以上の200万人という数字を”科学界に記録を打ち立てる研究“と述べた事が推測できる。問題は数よりも研究目的やデータの質なのである。
つまり、彼が考える健康管理とは県民の健康維持のための管理ではなくABCCが行なったような被ばく者の観察・管理と科学的研究のためのデータ取りと思われるような発言なのである。
(次号へ続く)