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五井野正博士の世界

放射線災害の歴史と現状D

海外紙が伝える福島原発事故の事実

 さて、本紙に連載していた福島原発事故の真実で地震によるメルトダウンの記述が、なんと事故があってから5ヶ月を経て、海外の著名な新聞『The Independent(ザ・インデペンデント)』でその内容が正しかったとを裏付けるような記事が8月17日付けで発刊されました。
 タイトルは「The explosive truth behind Fukushima's meltdown」(福島原発メルトダウンに隠された衝撃的な事実)という特集記事で、全文はとても長いため要約した記事が『ふる里村タイムス』(ふる里村文化の会員宛の新聞)に掲載されているので、そこから抜粋した内容を以下に掲載して、あおぽの読者にお知らせする次第です。

The Independent (ザ・インデペンデント紙)2011年8月17日付けより抜粋
David McNeill in Tokyo and Adelsteinの共同執筆

 3月11日から数日間、枝野前官房長官は「メルトダウンはしていない」という言葉を繰り返していたが、その時、既にメルトダウンが起きていたことを事故から5ヶ月経ってインデペンデントの記者達は知った。
 そして、当時の東京電力の清水正孝社長は原発事故に対して「想定外の事故だった」と語っていたが、想定外どころか、事故は業界の評論家達によって、度々警告されていた。
 例えば、2002年9月に東京電力は、非常に重要な循環水配管の亀裂に関するデータの隠蔽を認めたが、これらの配管が破壊されれば、原子炉内の冷却水が漏出して燃料棒が溶解する深刻な事故となるという事を充分に知り得たはずである。
 しかも3月2日に、つまりメルトダウンの9日前に、政府の監督機関、原子力安全・保安院は、再循環ポンプを含めた原発機器の極めて重要な部分の整備や検査を東京電力が怠っている事に対して、警告していた。
 インデペンデント紙の記者は、原発で何人かの作業員と話したが、皆、津波が襲う前に、配管と、少なくとも原子炉の一基に、深刻な損傷が起きていた事を口々に語ってくれた。
 福島原発にいた保守技術者の作業員Aは、地震の後にシューと音をたてながら、洩れている配管を思い出して語った。 「ばらばらになった配管をこの目で見たし、原発の中では、もっと色々に壊れていると思います。原発内部を地震が大きく損傷させたことは間違いないでしょう。1号機タービン建屋の壁の一部がはがれ落ちるのも見ました。あの亀裂は、原子炉に影響したと思います」
 他の作業員も「地震は二度起きたように感じました。最初の衝撃は余りにも強かった為に、建屋が揺れながら配管が曲がってゆくのが見えました。数分間のうちに、配管が破裂するのも見ました。壁からはがれ落ちるものも見ました」「誰かが、皆避難しろと叫びました。冷却水給水用配管だと思われるものを含め、何本かの配管がひび割れしていると言われたが、避難しながらも私も見たので、大変に心配でした。と言うのも、冷却水が原子炉の炉心に入らないと考えられるからです。もし十分な冷却水が炉心に入り込めなければ、炉心はメルトダウンします。原子力学者でなくても、そんなこと位わかります」 「車に向かって進む際に、第一原子炉の建屋の壁が崩壊し、穴があいていたのを見ました。最初の数分間、誰も津波のことは考えませんでした。私たちは生き残ることだけを考えていたからです」
 ブルームバーグ通信社は、3月11日の午後3時29分、津波がまだ来る前に原発からおよそ1.6qの所で、放射能警報が鳴ったと報道した。 「東京電力 帝国の暗黒」の著者、恩田勝亘氏は、「政府や業界が地震による原発事故を認めれば、日本にあるすべての原子炉の安全性において同じシステム上の問題に疑惑を起こさせる。つまり、多くの古い原子炉が同じ様な配管の損傷問題を抱えているからである」と述べた。
 元原発設計者の田中三彦氏は、3月11日に起きたのは、冷却水の損失事故だと説明する。 「東京電力が公開したデータを見ると、地震から数時間後に、冷却水の膨大な喪失を示している事がわかる。これは電力が喪失したからではありません。既に、地震によって冷却装置に大きな損傷があったので、津波が到来する以前に、メルトダウンが起こる事は不可避だった」
 公開されたデータを見ると、地震直後の午後2時52分に、AとB系統両方の緊急循環冷却装置が自動的に起動したことが示されていると彼は言う。 「これは、冷却水の喪失が起きた場合にのみ、起こります」
 午後3時4分から3時11分の間に、格納容器内部の緊急冷却水噴霧装置が起動した。田中氏によると、これは他の冷却装置が駄目な場合にのみ、使われる緊急対策だと言う。午後3時37分頃に、津波が到来し、すべての電気系統を破壊する頃には、原発は、既にメルトダウンに向かって進んでいたのである。
 調査期間中、恩田氏は東京電力の原発で働いた何人かの技術者と話をした。配管の検査は、いいかげんなことが多く、近づきにくい配管の裏側は無視されることが多かったという。必要以上に長く、放射能に曝されたい人などいないから修理作業は大急ぎで行われる。恩田氏はこう補足した。 「もし配管が破断すれば、原子炉に不可欠な冷却水が炉心にまわらなくなり、心臓マヒになります。原子力の用語で、メルトダウンです」
 1977年から2009年まで東京電力に勤務し、元福島原発の安全担当者だった蓮池透氏は、 「福島原発の原発事故の緊急対策には、炉心を冷却するために海水を使うという記述はありません。海水を炉心に注入するということは、原子炉を破壊するということです。それを行なう唯一の理由は、他の水や冷却水が使えない場合のみです」と語っている。
 午後9時51分、社長命令で、原子炉建屋内は立ち入り禁止区域となった。午後11時頃、原子炉の隣にあるタービン建屋内の放射能レベルは、一時間0.5から1.2mSvのレベルに達した。要するに、メルトダウンは既に進行中だった。
 3月12日の午前4時から6時のある時点で、吉田昌郎所長は、海水を原子炉炉心に注水するべき時期だと判断し、東京電力に通知した。
 しかしながら海水は、水素爆発が起きてから数時間後の午後8時頃まで、注水されていなかった。その時点では、既に遅すぎていた。
 3月末、東京電力は、「福島第一原子力発電所1号機原子炉の炉心状態」という題名の報告書の中で少なくとも、こうした問題提議のいくつかに対して認めるようになった。報告書には、津波の前に配管を含め、重要な設備に損傷があったと記された。
 独立性のある放射性廃棄物コンサルタントで、グリーンピースと協力してきたショーン・バーニーは 「これで、日本と海外の業界が保障してきた、原子炉の安全性は吹き飛んだということになる」
 さらに、「地震危険度の高い地域にあるすべての原子炉に対し、基本的な疑問が生じる」と語った。
 バーニー氏が指摘している通り、東京電力も、1号機爆発の、7ないし8時間前に、大量の燃料溶融が起きたことを認めている。 「こうしたことの全てを彼らが知っていたと思うから、膨大な量の水で原子炉施設を水浸しにするという彼等の決断は、太平洋への汚染を含めて、更なる膨大な周囲への汚染を、必ずひき起こすものでした」

 以上、インデペンデント紙からの記述でしたが、ここで登場する恩田勝亘氏は30年前から浜岡原発の危険性を繰り返し警告していたジャーナリストである。

(次号へ続く)

              
五井野 正 (ごいの ただし) 科学者・芸術家
ウィッピー総合研究所 所長 / ロシア国立芸術アカデミー名誉正会員
スペイン王立薬学アカデミー会員 / アルメニア国立科学アカデミー会員
フランス芸術文化勲章受章
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