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五井野正博士の世界

東日本大震災のゴミ処理問題を考える

ガレキ処理は放射能問題が壁

 昨年、3月11日の東日本大震災が生み出した大量のガレキは岩手、宮城両県で推計2044万6千トン、福島県で推計208万2千トンであるが、そのうち焼却や埋め立て、再利用などの処理が済んでいるのは1年目に入っても6%強に過ぎない。
 環境省は被災地のガレキ、約400万トンの処理を沖縄県を除いた全国の自治体に呼びかけていたが、受け入れる住民がガレキに含まれる放射能の不安などの問題から少しも進んでいないのが現状だ。
 そこで、震災から1年少し過ぎた3月13日に野田佳彦首相は、都道府県と政令市に文書で受け入れを要請する方針を表明した。
 首相の表明に合した形で翌々日の15日、静岡県島田市の桜井勝郎市長が「試験焼却で安全は確認された。被災者の痛みを少しでも分かち合いたい」と、記者会見で述べ、岩手県大槌、山田両町のガレキを1日20トンを一般ゴミと混ぜ、年間5000トンを焼却処理することを表明した。これで東北地方を除く自治体による広域処理は、東京都に次いで2番目となる。
 さて、ここであおぽの読者は何故、島田市がガレキと一般ゴミとを混ぜて焼却するのかと疑問に思うであろう。
 つまり、津波の後のガレキと言うと、その行政区にあった防波堤や道路のコンクリートのかけらのようなイメージを受けるが実際は崩壊したビルや構造物のガレキなどもあるが大半は壊れた家屋の鉄板や木材などに混ざって布団や洋服、電化製品や家具、さらには家庭用ゴミなど、生活用具類のゴミが何段もの山となって積み重なっているのである。
 そこで、ガレキの中から焼却できるゴミを分別し焼却処理を行うが、その時ガレキに含まれる放射性物質の半数近くが煙と共に大気中に、残りの放射性物質は焼却灰として残ってしまう。すなわち、放射性物質は焼却しても消えないのである。
 昨年、政府は1kgあたり8000ベクレル以下の焼却灰は埋め立て処理できるという基準を示したが、それを超える放射能の量が都市部でも検出されて住民に大きな不安を起こさせたことはまだ皆さん方にも記憶に新しいと思う。
”ただちに健康に問題が起きる量ではない“と常に安全宣言を繰り返してきた政府が1kgあたり8000ベクレル以上は密封したコンクリートの中で保管すると言う方針そのものが、逆に言えば8000ベクレル/kg以上は市民の健康に安全でない、つまり危険だと言うことをかえって強く住民に意識させてしまった訳である。
 それによって、市民が放射能汚染ガレキの受け入れに拒否反応を起こしてしまった。すなわち、福島原発事故によって放出された放射性物質は福島県のみならず図1に示された通り、津波による震災があった岩手、宮城県、両県にも及んでしまっていたから問題なのである。
 そうなると、ガレキの焼却で残る焼却灰の残留放射能の量が問題になるから、あまり放射能汚染されていない市町村のゴミと一緒にゴミ増し(水増し)焼却してしまえば全体で8000ベクレル/1kg以下になって焼却灰の埋め立て処理ができるというのがどうやら前述した問いの解答のようである。
 と言って、多くの市町村で1基数百億円で建設された最新鋭の焼却場があったとしても、行政管轄内の市町村ゴミを処理するだけでも大変なのに、いくら被災地への援助とは言え、これ以上のゴミを処理する事など財政的にも余裕がないだろう。


ガレキ処理の裏には3500億円の金

 そこで、環境省は昨年5月に3500億円のガレキ処理の予算を組んだ。ガレキ処理をする自治体には輸送費も国から補助金として支給されるからこの利権に業者と結びつく地方自治体は喉から手が出るほどこのガレキ処理の仕事が欲しくなるだろう。
 ところが、放射性物質の拡散を恐れた住民たちが汚染されたガレキの受け入れに反対運動を起こしているから、事は業者や市町村長の思惑通りには簡単にいかないのである。
 そういう理由ではないかもしれないが島田市に続いて、この日千葉県市川市の大久保博市長も焼却灰の最終処分場が確保され、放射性物質の濃度が低いことを条件に受け入れる方針を示し、鳥取県米子市も岩手、宮城両県のガレキ6万トンを国が焼却灰の処理地として国有林の場所を活用する方針を示したことで受け入れることを正式決定した。
 そして、3月25日には7府県で構成する関西広域連合が受け入れるガレキの放射性セシウムの量を1kgあたり100ベクレル以下とし、埋め立てる焼却灰は国の基準より厳格にして1kg2000ベクレル以下の統一基準を決め、協力することになった。
 このように各自治体がガレキ処理に前向きになってきたが、政府の方針は2014年3月末までに処理を完了したいという希望なので、1年で6%強、あと2年で約94%のガレキ処理をしなければならないのだ。
 そういう中で、今年3月に赤坂の料亭で私は細野豪志環境大臣と食事をしながら原発問題やガレキ処理問題などを話し合った。政府の考えではガレキ処理の引き受けを地方自治体がなかなか受け入れてくれないために処理がなかなか進まないという言い分だった。
 確かに行政的には住民たちが出すゴミはその住民地を管轄する地方自治体が処理しなければならないだろう。それを他の自治体に処理させるということになれば、これはもはや地方自治体の問題ではなく国の問題となる。
 本来なら放射能汚染ゴミだから原子力安全庁(仮称)や東電が行うべき問題なのだが、何故か環境庁の仕事になっている。しかも、放射能ゴミの全国処理、つまり拡散になるから日本の環境汚染に環境庁が自ら手を染めていることになる。先進国から見ればこの国は”正常“でないとわかるだろう。
 その長である細野環境大臣は沖縄がガレキ処分の引き受けに名乗り上げてくれたから、これによって流れも変わるだろうとの希望的観測を示し、政治生命をかけてまでもガレキ処理を行いたいというパワーを示したので私と意気が合った。
 そこで、彼が2番目にガレキ処理を表明した静岡県の島田市産の茶を国民に安全だとアピールしたいと言う事で一緒にお茶で乾杯した(写真1)のだが、それはそれで立派だと思う。
 しかしながら、放射能の拡散に反対する住民抜きの自治体まかせで本当にガレキ処理が完璧にできるのだろうか?また、新たな環境問題を引き起こさないのだろうか?

(次号へ続く)

              
五井野 正 (ごいの ただし) 科学者・芸術家
ウィッピー総合研究所 所長 / ロシア国立芸術アカデミー名誉正会員
スペイン王立薬学アカデミー会員 / アルメニア国立科学アカデミー会員
フランス芸術文化勲章受章
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