五井野博士×あおぽ編集長 特別対談
放射線の対話講座<1>
・先週に引き続き、今週も五井野先生にお越し頂いてお話を伺いたいと思います。
まず、先週に提案された100名から200名くらいの小規模の勉強会ですが、講演会の会場が大きすぎて後ろの方の席だと話がよく聞こえなかったみたいで再一度、小さな会場で講演会を開いてくれたらうれしいという声もありました。
「そうですか。会場が大きくてマイクの指向性にも問題があったのかもしれませんね。でも今までのあおぽを良く読んで頂けたらわからなかったこともよくわかると思います。それにわからなくても、今の大学生や教授でも知らないことばかりの話もありますから何度も聞いてください。
それと、秋田市民が自主的に災害対策をしていくための勉強会もやりましょう。備えあれば憂いなしですからね。東日本大震災の犠牲者に報いるためにもその災害を教訓として、秋田でもまさかの災害が起きても対処できる対策を考えていきたいですね。」
・ハイ、ところで、講演の中で汚染水の問題が出ましたけど、再一度放射性の基礎知識を教えて下さい。(ハイ、わかりました)
と言うのも、放射性物質が放射線を出したらその物質や放射線量が消滅していくのではなく、別の放射性物質に変わるという話がありましたが、その部分を再一度詳しくお願いします。
「わかりました、図1を見て下さい。この図は放射性同位元素等取扱者(オーム社出版)のテキスト本に掲載されている図ですが、原子力発電所の核燃料として使われているウラン235の燃料の他に図の出発点にあたるウラン238(238U)が96%入っています。そのウラン238が崩壊して鉛になるまでの系図です。」
・1番上の正八角形がウラン238ですね。(ハイ)
この枠の中に4.468×109yと書かれていますけど。これは何の数字でしょう?
「これは4・468×109年という意味です。yはyear(年)の略字です。109年というのは10の9乗年という意味ですが、一般人には難しいと思うので簡単に書くと、1の後に0を9個書けばいいのです。つまり、1000000000年ですね。分かりにくいので0が4つごとにコンマを入れれば、10、0000、0000年となって10億年となります。これに4・468をかけると44億6千800万年ということになります。かえってわかりにくくなりましたか?」
・いえ、詳しく教えていただきました。これで、図1に書かれている正八角形の中の数字の意味がわかりました。ところで、この数字はなんですか?
「この数字は半減期の時間を表しています。そこで、ウラン238は44億6千800万年の間放射線を出して半減期を迎えるのですが、図を見て下さい。矢印の左に書いてあるα4・198というのは419万8千evのエネルギーを持つα線を出すということで、それによってトリウム234に変わります。
すると、今度は24・1日の半減期でβ線を出してパラジウム234に変わり、図のように動いて次々と放射線を出しては様々な物質に変わります。物質によってはものすごいベクレル量の放射線を出します。このことはマスコミは全く伝えていませんね。でも、この図で崩壊していく時にでる放射線のベクレル量の説明は次回にしましょうね。」
・え!怖いですねえ。放射能のベクレル量が突然に多量になることがあるのですね。それは次回に聞くとして、まず半減期ってテレビや新聞でよく聞きますが、それとガンマ線について正確なところを教えてください。
「わかりました。原発というのは燃料棒に入っているウラン235に中性子を当てて核分裂をさせ、その時に出るエネルギーで水を沸騰させて発電させるシステムです。しかし、放射性物質やウラン238のように原子の質量が大きい物質は中性子を当てなくても自然に崩壊して別な物質になります。この時、放射線の量が半分になる時間を半減期と呼んでいます。
ところで、その崩壊の仕方には大きく分けて3つの崩壊の仕方があるのです。
α(アルファ)崩壊、β(ベータ)崩壊、γ(ガンマ)崩壊の3つです。
α、β、γというのはギリシャ語で、英語で言うとA、B、Cのことです。日本人が最初に発見すればア線、イ線、ウ線とか、イ線、ロ線、ハ線と呼んでもいいでしょうね。」
・そうなんだ。単なる区別けする時にギリシャ語でA、B、Cと分けただけですね。
「そう、ですから、そんなに難しくないでしょう。ところで、原爆や原子力発電に使われるウラン235は自然界にある天然ウランの0・7%くらいです。あとの99・3%はウラン238なのです。天然ウラン鉱には燐灰ウラン石(写真1)やピッチブレンドと呼ばれた瀝青ウラン鉱(写真2)などがあります。」
・わあー燐灰ウラン石ってきれいですね。
「そうですね。きれいなだけでなく、重たいですから原石を写真乾板の重石に使っていたのですね。すると、写真乾板を感光させてしまう。ですから、最初の発見者は写真屋さんだと思いますね。
この現象をアンリ・ベクレルという教授がウラン化合物を写真乾板に感光させ、そこで何か見えない光がウランから出ているとして、その光を1896年に取りあえず蛍光線と言った訳ですね。これが後にベクレル教授を讃えて今日のベクレルという放射線の量単位になっている訳です。」
・そうなんだ。1sあたり何ベクレルというあのベクレルはもともとは人の名前だったんですね。
「そうです。次にイギリス人でラザフォードという人がアルミ箔を使ってウラン化合物から出てくる放射線の透過を測ったのですが、その透過力の強さに2種類があることがわかったのです。
0・05ミリメートルの厚さのアルミ箔で遮断できる線と1〜2ミリメートルくらいのアルミ箔で遮断できる線のことです。そこで、英語でA、Bの代わりにギリシャ語で「α(アルファ)線」「β(ベータ)線」と名付けたのです。ベクレルの発見から3年後の1899年のことです。」
・今、私たちが問題としている「γ(ガンマ)線」は?
「これは、フランス人のヴィラールという人が1900年に観測してラザフォードがこの線はX線より波長の短い光と考えて、3年後の1903年に「γ(ガンマ)線」と名付けたのです。
ところで、ベクレルとかラザフォードとかヴィラールという名前が次々と出てきたのでわかりにくいですが、図2を見て下さい。
飛び出てくる放射線をプラス・マイナスの磁石とかプラス・マイナスの磁場の中を通過させるとプラスの方に傾く線と、マイナスの方に傾く線と、そうでない線の3つに分かれます。
そこで、プラスに傾くのがβ線で電子とわかりました。そして、マイナスに傾くのがα線ですが、これはヘリウム(He )の電子を取ったヘリウム原子核だとわかったのです。
プラスにもマイナスにも傾かないで真っ直ぐに飛ぶのが光と同じ電磁波(可視光線や紫外線、X線と同じ線)のγ線です。
・γ(ガンマ)線というのは私たちが見る光と同じなんですか!?
「そうです。電磁波という点ではまったく同じです。図3を見てください。私たちが光として見ているものは波長が380nm (ナノメートル)から780nm なんですね。ナノというのは、1ミリの1000分の1
の長さが1マイクロで、その1000分の1がナノです。
この図を見るとラジオやテレビに使われる電波も光と同じ電磁波だとわかりますね。すると、レントゲン写真に使われるX線よりもγ線の方が波長が短く、その分エネルギーが強いのですよ。ですから、X線とγ線と一緒にしてレントゲンのX線を何回で何マイクロシーベルトと測って放射能の影響力を示しているのは根本的に間違いですね。しかも、この図で面白いのはγ線よりも宇宙線の方がはるかに波長が短く、エネルギーが高いのですよ。」