秋田県の水温低下で魚も変わる?
原発停止による日本海の変化@
昨年5月に日本の原発はすべて運転停止した。それによって原発から海に流される膨大な温排水の熱が大幅に低下し、日本海の海面温度も下がっていることが判明しつつある。海面温度の低下は当然ながら漁獲にも影響する。近年増えていた温暖系魚類に代わってどんな変化をもたらすのだろうか。
3・11フクシマで日本の原発の大半が停止し、残る運転中の原発も順次、定期検査入りしたのを機に昨年五月までに全機が止まった。原発は一機当たり毎秒約70トンもの温排水を海に流している。原子炉を冷やすために巨大なパイプで海水を吸い上げ、原発内を一巡して温かくなった海水は再び海に吐き出される。毎秒70トンは1分で4200トン、一時間で25万トンにもなる。約5時間で東京ドーム一杯分が原発周辺にタレ流されて周辺海域を温め続ける。それが海に影響しないはずがなく、各原発の地元では運転開始後から漁獲量の減少をはじめとする様々な問題を引き起こしてきた。
目に見える変化としてかつて紹介したのが、二機が稼働する九州電力川内原発(鹿児島県)の周辺海岸にサメやエイ、ウミガメの死骸が打ち上げられることだった。同原発は東シナ海に面しているが、温排水による温かい海水は九電が想定する以上に広範囲にわたっていた結果、南方系の魚類が原発周辺の海に集まっていた。温排水には微量ながら放射性物質も含まれるが、それより温排水のパイプ洗浄に使う次亜塩素酸ソーダによる薬害を受けたものと考えられている。プランクトンや小魚を餌にした大型魚は、放射能と同様に化学物質も体内で濃縮されていくからだ。
そんな温排水を常時流し続ける原発が全機停止した。原発は運転中なら300度にもなる炉心の冷却水は、運転停止すると100度以下に下がるが、原子炉は常時冷却する必要があるので海水による冷却も続いている。それでも運転中に比較すればはるかに水温は下がる。
その原発が集中的に立地するのが日本海側だ。北は北海道電力泊原発の3機、新潟県に東電柏崎・刈羽原発の7機、石川県に北陸電力志賀原発2機、そして福井県には関西電力の美浜3機、大飯4機、高浜4機、日本原電敦賀の2機が集中している。さらに島根県には中国電力島根原発が2機、佐賀県に九電玄海原発4機、と全原発54基中の33基が日本海沿岸に建っている。日本海も広いとはいえ、太平洋とは比較にならない。しかも北は宗谷海峡と津軽海峡で、南は対馬海峡に隔てられた内海のようなものだ。そこに膨大な原発温排水がこれまで注がれていた。
火力発電も温排水を出すが、量と温度は原発のそれよりはるかに影響は小さい。原発がつくる熱出力が電気に換えられるのは30%強でしかなく、70%弱は温排水として放出される。しかし、火力は45〜50%を電気に換え、温排水として捨てるのは50%強であり、発電所としても大出力の原発より小型が多い。その日本海側原発の温排水が対馬暖流に沿って北上することに着目。原発温排水が日本海にどのような影響を及ぼしていたかを調査研究した技術者がいる。三菱重工、三菱自動車出身で機械工学の専門家として法政大学講師などを務めた平松技術アドバイザー事務所代表の平松健男氏である。
平松氏が原発温排水と日本海の相関関係に着目したのは、3・11で温排水の大量放出が止まり、近海の海洋変化を客観的に把握できるチャンスが巡ってきたからだ。
「09年や10年の夏には、原発集中地帯の若狭湾を中心に越前クラゲが大量発生して漁業に被害をもたらし、3・11事故前の冬には山陰地方で重たいベタ雪によって数百隻の漁船が沈むという海面温度との関係を疑わせる事象がありました。たがこれまで原発周辺の局地的な異変を調査したものはありますが、日本海沿岸全体の海面温度との関係を調査したものはありません」(平松氏)。
そこで同氏が的を絞ったのが原発のない秋田県沖の海面温度の変化だ。そのユニークな着想と調査手法は次回に譲るが、先に結論をいえば秋田県沖の海水も2〜3度は下がっている。秋田県水産振興センターによれば、近年の傾向としてブリやイワシの北上が目立ち、南から上がってくる対馬海流の温暖化を窺わせていたという。
原発が止まることにより、今後の漁業にどんな変化が現われるか注目したい。 (続)